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コラム「遺言でできること できないこと①」2014年3月執筆

  

 相続専門のファイナンシャルプランナー・行政書士の中野庸起子です。前回は公正証書遺言書とはどういうものなのかについてと、実は公正証書遺言書は病院や施設などに入所中でも手続きできるのだということについて実例を交えてお話ししました。今回は、法律で定められている各種遺言の文中に「生きている間にもできるけれども、遺言でもできること」「生きている間にはできないので、遺言に書かなければ効力が生じないこと」についてお伝えします。

 

  世間で言われているいわゆる「遺書(いしょ)」と、私がこれから触れる「遺言書(ゆいごんしょ)(いごんしょ)」とは全く違うものです。

 遺言書とは日本の民法で規定されているもので、遺言書を生前に書いた人が死亡したとき(もしくは失踪宣告を受けたとき)にその人の財産を誰のものにしたいのかや、配偶者ではない人との間の子どもを認知したいなどの身分上の行為について、それらの意思表示を形式にのっとって記載したものをいいます。民法で規定されている形式に合った場合にその内容が有効となり、遺言者の意思通りに実現できるものをいいます。

  生きている間にもできるけれども、遺言でもできることとは?

 これは、生きている間はいろいろな事情があり実行をはばかっていても、自身が死んだら法的効力が生じるよう遺言に残すことができる事項です。

1つ目は、妻との間ではなく、ほかの女性との間にできた子どもを認知することです。認知したくてもできないが、自分が死んだら少しでも財産をあげたいし、自分の子どもとして今後も生きてほしいなどの思いがある場合に遺言に書けば実現できます。

2つ目として挙げられるのは、自身の財産を相続人以外に人にあげることです。これも生前にすることができますが遺言でもできます。生前に財産を相続人以外にあげることは贈与、遺言でそれを実行することは遺贈といいます。生前は遺言者を取り巻く環境などで贈与できなかった場合に、自身を特別に介護してくれた嫁や相続人ではない甥姪などの親戚、入籍はしていなかった事実婚の妻もしくは夫などで財産をあげたい場合、遺言書で文章に残すのです。

2つ目の例としてあげられるのは、財産の寄付です。福祉団体や公的機関への寄付のことを指します。

3つ目の例としてあげられるのは、相続人を廃除することです。生前、自分に暴力を振るっていた子などの相続人に自分の財産を取得させたくない場合に、遺言でその相続権を奪う、つまり廃除することができます。

 生きている間にはできないので、遺言でしなければならないことは?

 1つ目 まずは遺言者(つまり遺言を書く人)の財産を相続人にどのように取得させたいか決めることです。これは、「この土地は長男にあげる、この預貯金は次男にあげる」というように、取得させる財産を指定できます。

2つ目は 法定相続分を変えることです。子ども2人のみが相続人である場合は、民法によると子どもは2分の1ずつの相続分がありますが(これを法定相続分といいます)、長男は3分の2、次男は3分の1とするなど決めることができます。

3つ目は未成年後見人を指定することです。これは、たとえばこのような場合のことを指します。

 夫が亡くなったあと一人で未成年の幼い子を育ててきた母親が、万一自分が死んだら、その子の親権者には誰がなってくれるのか心配な場合、遺言で親権者、つまり未成年後見人を指定する場合などです。

4つ目は相続人に、自分の遺産の分割を一定期間しないように指示することです。ただし、これは5年以内の期間で指定しなければなりません。

事例から 

 では、上記に関して私がたずさわった事例をお話しします。家庭の事情から、どうしても遺言を遺したいという高齢の男性からの相談。その男性には跡取りとして考えていた長男と、長女、次女がいます。長男は高校生のときから父親である自分へ暴力、暴言がひどく、それから10年間は我慢していたそうです。いくら自分に暴力をふるう子でも子は子なので可愛かったから。しかし、その長男は自分の財産にまで手をつけるようになり、お金を持ち出したまま行方不明になってしまったとのこと。もし自分が死んだときにひょっこりあらわれて財産をくれと言われては困る、そこで遺言で何とかならないかということです。遺言でもし「相続人である長女・次女に2分の1ずつ取得させる」と書けば、それで長男に財産が渡らないのではと思われるかもしれませんが、実は長男には法律で認められた権利である「遺留分(いりゅうぶん)」があるので、自分の取り分である遺留分を欲しいと、長女次女に請求できてしまうのです。そこで廃除という手続きをしなければ、長男へ渡る財産をゼロにはできないのです。

  では、次回は「遺言でできることと、できないこと②」と題して、遺言に書けるけれども法的な効力はないことを事例をあげてお伝えします。

※このコラムの著作権は筆者に帰属しますので、無断転載を固く禁じます。

Yukiko Nakano

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