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相続 遺言コラム「遺言書が二つ出てきた!」
2014年1月執筆記事(著作権は中野へ帰属します)
相続専門のファイナンシャルプランナー・行政書士の中野庸起子です。大相続時代の到来、すなわち少子高齢化が猛スピードで進んでいます。また最近では核家族化、家族態様の多様化(事実婚の増加、シングルの増加)により、相続が発生したら昔のように子どもたちが相続するケースばかりではなく、兄弟姉妹・甥姪が相続するケースが多くなることにつながり、「相続争い」防止のため、遺言書の書き方セミナー、エンディングノートについてのセミナーが盛況です。つまり、自身の財産の行方を生きているうちに決めておきたいと考える高齢者にとって、最も有効な手段である「遺言書作成」を考える人が増えてきたのです。しかしながら遺言書には気をつけるべき点がいくつかあり、せっかく残した遺言書が相続人の紛争を引き起こすこともあります。
今回は、遺言を残した人が亡くなったあとで遺言書が2つ発見されたらどうなるのか?について、実際に私がたずさわった案件からお伝えします
遺言書には民法上、数種類ありますが、特によく利用されているものはそのうち2つで「自筆証書遺言書」と「公正証書遺言書」です。遺言書を残しておくと、遺言者が死亡したときは、その遺言書の内容通りに財産を相続させることができるというのはよく知られていることですね。
では、遺言者の死後、遺言書が2つ、もしくは複数出てきたらどうなるのでしょうか?
実際にあった案件からお話しましょう。
(以下、案件の日時や名前は仮定)
80歳の女性が平成25年1月1日に亡くなりました。その女性をAさんとします。Aさんは平成20年4月1日に次のような内容での公正証書遺言書を残していました。
遺言公正証書
当公証人は、平成20年4月1日、当公証役場において、遺言者Aの嘱託により、証人○と証人○の立会いのもとに、以下の通り遺言の趣旨の口授を筆記し、この証書を作成する。
本旨
遺言者は次のとおり遺言する。
- 遺言者は相続開始時に遺言者が所有する下記不動産を、長男Bに相続させる。
土地 甲 (所在・地番・地目・地積 省略)
- 遺言者は相続開始時に遺言者が所有する下記不動産を、次男Cに相続させる。
土地 乙 (同上)
- 遺言者は第1条から2条までに記載した財産を除く、相続開始時に遺言者が有する一切の財産を、長男Bに相続させる。
(以下、省略)
この公正証書遺言書はAの長男BがAから預かっていたもので、Aの死後Bが相続手続きの相談のために私に見せたものです。相談を受けた私は「この公正証書で手続きを開始しましょう」と、粛々と手続きを進めようかと、Aの死亡記載の除籍謄本の準備等に入りました。数日後、Bから私に電話が。
「四十九日の法要の準備などで仏壇を掃除していると、平成24年4月1日付のAが書いた遺言のようなものが出てきました!封筒に入っているのですが封はされていません。これ、どうしたらいいですか?」
驚きました。
これは自筆証書遺言書です。そこで私はまず、民法上の形式が整っているのかどうかを確認。これはOKでした。民法で規定されている自筆証書遺言書の形式は、遺言者がその全文、日付および氏名を自署し押印していることが要件です。次にこの自筆証書遺言書の内容を確認。
すると、甲土地はBへ、乙土地はCへ・・・・・ここまでは公正証書遺言書の内容と全く同じですが、
丙土地はCへ
となっているではありませんか。
つまりまとめますと、平成20年4月1日付の公正証書遺言書では「こう 乙 以外の財産はすべてBへ」となっているのに、平成24年4月1日付の自筆証書遺言書では「甲 乙 以外の財産であるうちの 丙 はCへ」となっているのです。
こういう場合はどうなるのでしょうか。
答えは民法に記載されています。
民法1023
1 前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
2 前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。
となっています。
つまり、この事例では、先に書かれた遺言書と後に書かれた遺言書とで、気が変わっている部分については後の遺言である平成24年4月1日付の自筆証書遺言書の通りとなるのです。
丙土地はBではなくCへ相続させて、甲乙丙以外の財産については、前の遺言書のとおりBに相続させることになるのです。
かなり混乱しそうな結論ですが、「気が変わって撤回した部分のみ、死亡した日により近い時期にかかれた遺言書の方が優先される」と覚えておいてください。
もちろん、自筆証書遺言書の形式がととのっていて、かつ、裁判所での検認手続きをクリアした場合に限りますのでご注意ください。
こういうふうに、人間は「気が変わる」ということがあるでしょう。もし、先に書いた遺言書の内容すべてを「や~~めた」という風に変えたいのであれば、もう一度遺言書を書くときには、
「平成○年○月○日に書いた自筆証書遺言書を撤回する」という新たな遺言書をしっかりと残すべきですね。
ちなみに、この実際にあった上記の事例では、後に書かれた遺言書が自筆証書遺言書で、裁判所での検認という手続きを受けた際に、相続人らの修羅場劇場でした。
「これはAがほんまに書いたもんか?」「Aはこんな字は書かん」
「いや、これは本当にAが書いたに違いない」 「無理やり書かせたんじゃないか」 と相続人ら。
この事例での結論は、この自筆証書遺言書の検認は無事終え、遺言書通りに相続の手続きが行われました。
しかし、せっかく残していた遺言書が引き金になり、相続人らは絶縁状態になってしまい現在に至ります。
遺言川柳 「遺言書 しっかり残して 思いやり」